● ベニエとチコリ・コーヒー ●

 ニューオーリンズ最大の繁華街フレンチ・クオーター。そのミシシッピ川寄りにあるのがフレンチ・マーケットだ。地元の食材や香辛料、アーティストの作品が大量に並べられ、急いでお土産を探すのなら真っ先に訪れると便利な場所である。

 このマーケットの近くにあるのがカフェ・デュモンド。ニューオーリンズに滞在する間、ぜひ一度はここを訪れ、名物のベニエとチコリ・コーヒーを味わってもらいたい。

 揚げたてホカホカのフランス風ドーナツ、ベニエには粉雪のような砂糖が大量にまぶされている。と書くと、ベタベタ甘過ぎる気もするが、ベニエ自体の甘さは控えめで、揚げ物だけれど脂っこさはなく、何個でも食べられそうなドーナツだ。南北戦争中にコーヒー豆が不足し、キク科の多年草、チコリの根を焙煎して代用したのが始まりだというチコリ・コーヒーには、確かに植物の根っこを思わせる渋みがあり、ベニエとの相性は最高だ。

 ニューオーリンズのニックネームは「Big Easy」。ストレスを忘れ、ゆったりと気楽にのんびり過ごす街なのだ。到着早々、我々もチコリ・コーヒーを味わいながら、くつろいでいた。と、その時、カフェのすぐ外でトランペットを吹いていた男が歌い始めた。「Do You Know What It Means To Miss New Orleans?」。ニューオーリンズへの郷愁を歌い上げるジャズのスタンダードだ。観光地的な薄っぺらい風景だと思う人もいるかもしれない。しかし男の歌声を耳にすれば、誰だって嬉しくなってしまうだろう。とにかく歌が上手いから聴き惚れてしまうのだ。

 まだ朝の10時なのに、フレンチ・クオーターを歩けば、ジャズの生演奏がそこかしこで行われている。さすがはジャズ発祥の地だ。カフェ・デュモンドの向かいにあるジャクソン広場。地元のアーティストが絵画を売り、タロット占い師がテーブルを広げるこの広場と、1727年に建設された北米最古のセント・ルイス大聖堂との間のスペースでは、トランペットにサックス、トロンボーン他からなる小楽団がベンチに腰を下ろして演奏していた。

 その土地の全ミュージシャンの演奏能力を足して人数で割った数値があるとすれば、それがニューオーリンズほど高い場所はそうはないはずだ。ニューヨークのとあるミュージシャンが「ニューヨークには大物がいるが、ニューオーリンズには化け物がいる」と口にしていたのを思い出す。有料無料を問わず、この土地ではどんな演奏を聴いても、ついつい時間を忘れ、聴き入ってしまいそうだ。

 

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