● ザリガニとナマズ ●

 ニューオーリンズに来たからには、ぜひ試してみたい料理は数多い。その筆頭は、茹でたザリガニ(crawfish)だ。

 10数年前のニューオーリンズ初滞在時、ESLが付属していた大学キャンパスでは何度もパーティーが開かれた。ある日、誰が呼んだのか、側面にエビの絵が描かれた巨大なトラックがやって来た。トラックは停車すると、ガガガガガと音を立てて荷台を傾けた。荷台の中の何かがザザザザザと移動した。それをスコップですくい、大きな皿に盛ってくれた。大量の香辛料で茹で上げた真っ赤なザリガニの大盛りだった。エビと同様、しっぽは皮をむいて食べ、頭部はすすった。美味かった。しかし翌日、何度もトイレに行く羽目になったのを思い出す。

 「最高のザリガニが食べられるのはどこか?」と聞くと、ニューオーリンズの人たちは「気の合う友達の家の裏庭だ」と答えるのだという。しかし観光客にはなかなかそんな機会はない。そこでKjean Seafoodというレストランに行ってみた。地元のウェブサイトを見ても、強くお勧めされているお店だ。

 「え〜ザリガニを食べるんですか?」と最初は疑っていた川畑氏は、一口食べただけで「これは美味しい。この味、日本人なら全員好きなんじゃないですかね」と豹変した。海で採れるエビにはない川魚的な泥っぽさが時に感じられるが、強い香辛料のおかげで気にはならない。胃腸の弱い人は翌日、トイレ問題が発生するかもしれないが、トライする価値はおおありだ。ひと盛りが4ドルほど。

 この店ではキャットフィッシュ(ナマズ)のポーボイ(9ドル)も食べた。ルイジアナではサンドイッチをポーボイ(Po' Boy)と呼ぶ。その語源については諸説ある。1929年、ニューオーリンズ市内を走る路面電車、ストリート・カーの運転手がストライキに突入した。そこにサンドイッチを差し入れたレストラン店主は、自らも元運転手であったため、彼らを哀れんで「poor boys」と呼んだ。それがサンドイッチの名称に転じたというのが最有力かつ最も面白い説だという。

 と、ここまで書いたところで、先ほどから急に無口な男に変身していた川畑氏がトイレに飛び込んだ。ザリガニを食べてからまだほんの数十分なので、まさかそのせいではないだろう。と思っていると、彼はいったんトイレから出てきたものの、またすぐに飛び込んだ。日本からニューヨーク、そしてニューオーリンズまでと急な旅の連続だった川畑氏。きっと体調を崩し、お腹の調子が悪くなったのだろう。と思っていると、今度はこの私がトイレに飛び込んでいた。

 ザリガニの威力、恐るべし。翌日どころか直後だった。しかし、ちょっとばかり美味し過ぎるので、また食べてしまいそうだ。

 

(前に戻る)  (続きを読む)