● 音楽のジャンル分けは無意味 ●
ニューオーリンズの音楽といえば、誰もが真っ先にジャズを思い浮かべるのではないだろうか。しかし実際にこの街で聴こえてくるのはジャズだけではない。一番有名な通り、フレンチ・クオーターのバーボン通りを、ネオンがあやしく輝き出す頃に歩いてみると、まず耳にするのはおそらくジャズではなく、エネルギッシュなロックあるいはR&Bだろう。
もっとも、しばらくこの街に滞在して音楽に身をさらしていると、そういうジャンル分け自体が無意味に思えてくるはずだ。同地の音楽情報誌「offBEAT」の11月号に、ニューオーリンズの音楽の独自性をうまく表しているインタビュー記事があったので紹介したい。カナダ出身のシンガーソングライター、ニール・ヤングのバックバンド「クレイジー・ホース」でギターを弾くフランク・サンペドロがこう語っている。
サンペドロ「音楽は人を結びつけるべきものだと思う。昔はラジオをつければ、ロックが、ゴスペルが、フォークが、ブルーグラスが、ランブリン・ジャック・エリオットが、ボブ・ディランが、そしてアレサ・フランクリンがすべて同じ局で流れていた。そんな時代はもう終わった。今では音楽は人々をばらばらにするために使われている。『俺はヒップホップ野郎なんだ』『俺はブルース派さ』『俺はジャズしか聴かない』『ロックなんか大嫌いさ』って具合にな。俺に言わせりゃ、そりゃ音楽じゃない。音楽っていうのは、みんなで一緒に聴いて、一緒に楽しむもののはずなんだ」
記者「ニューオーリンズでは今でもそんな感じだね。WWOZ局なんかは実にうまくジャンルを融合してる。ジャンルをまたいで活動するミュージシャンも多い。伝統的なジャズをやったかと思えば、次の日はガレージ・ロックをやる」
サンペドロ「ニューオーリンズにはすぐれた音楽がたくさんある。ロック、ジャズ、ブルース、そしてゴスペル。音楽が今でも生きている場所の一つだ」
ここで言われていることは、バーボン通りを歩けばすぐに実感できる。あるバーからは、ニルヴァーナのグランジロック「Smells Like Teen Spirit」がクールなR&B風に演奏されているのが聴こえてくる。そのすぐ向かいのバーでは、ルイジアナ独自の音楽、ザイデコが強烈な熱気を発散し、ミュージシャンの首からぶら下がった銀色の洗濯板、ウォッシュボードを擦るギコギコ音がストリートまで響いている。バーボン通りで立ち止まり、両方の音の中間にうまく立てば、ジャンル分けの不可能な新しいミクスチャー音楽が誕生しそうだ。
軽めの楽しいピアノ演奏を聞きたければPat O'brienへ行こう。向かい合った二台のピアノで演奏する二人のピアニストが、ほろ酔い気分の観客とやり取りしながら、ポップな曲を矢継ぎ早に弾いていく。向かい合い、まるで決闘しているように弾くので「Dueling Pianists」と呼ばれている。我々が訪れた夜は、マイケル・ジャクソン、ビリー・ジョエル、レディー・ガガ、クイーン、そしてボン・ジョビが連続して演奏され歌われたといえば、どんな感じの楽しさか分かってもらえるだろう。
この店には、「Dueling Pianists」以上に有名なものがある。大量のラムを使った真っ赤なカクテル「ハリケーン」だ。1940年代に当時のオーナー、パット・オブライエンによって作り出されたこのカクテルは、今ではニューオーリンズを代表する飲み物となっている。十数年前の最初の滞在時にも、私は何度かこれを注文した。しかし、かなりの割合でビールの「ハイネケン」が出てきた。「Hurricane」と発音しているつもりが「Heineken」と受け取られてしまうのだ。
あれから10年以上がたった。私の英語も上達したはずだが、もしまた「ハイネケン」が出てきたらどうすればいいのだ? かなりの自信喪失だ。
しかし出てきたのは、見事に真っ赤なカクテルだった。この10年は無駄ではなかったようだ。皆さんもぜひ注文してみてはどうだろう。もしビールが出てきたら、あなたの発音はまだまだなのだ。








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